バックポケット付近。
従来のラングラージーンズと違い縦長で小さめの作りなのはプロト特有の仕様だ。
ポケット縁には補強用のスクラッチレスリベットが打込まれている、ラングラーが好んで採用したこのリベットは記念すべき最初のジーンズからも使われている、そうこれも伝統のパーツだ。
そしてリーバイスと違いこのリベットは隠される事もなければ省略される事もなく今現在でもラングラージーンズのポケットを飾っている。
バックヨークの巻き方向もリーバイスとは逆で下側に巻いてある。
さて特筆すべき最大の特徴はポケットに施されている飾りステッチだ。
ラングラーを象徴するWの文字をかたちどったサイレントWの飾りステッチではなくリーバイスと酷似したアーキュエイトステッチを採用している。
そもそもアーキュエイトに類似した飾りステッチは19世紀末から20世紀初頭にかけて多くのメーカーが採用しており当時ではジーンズやワークパンツの一般的な飾りステッチであったがリーバイスそれをが商標登録をした為、リーバイス専用の飾りステッチとなった。
そして他のメーカーは類似したステッチを仕様出来なくなり同様にラングラーでも誕生翌年の1948年にはアーキュエイトを廃止しオリジナルデザインの飾りステッチである、サイレントWを使用する事となる。
そしてそのサイレントWを施した11MW、更には世界初のジッパー装備ジーンズである11MWZが登場する事になる。
その為この飾りステッチのジーンズが僅かな期間しか生産されていなかったのが分かる。
現存数も少なくビンテージブーム以前はその存在が知られておらず、発見後は製品化の前の試作品では?の推測からプロト11MWと云われる事になる。
だが、その現存数と多様なサイズ展開から短期間とは云え正規に生産されていた物だと思われるがいずれにしろブランド開始当初に生産された希少なデニムには違いはない。

バックポケットと云えば、もう一つ注目しないといけないのは革パッチではあるが残念ながら欠損しています。
この当時は天然皮革製の横長ラベルが右バックポケット上部に飾られていた。
その材質は他社以上に脆くビンテージでは大半が欠損しており状態がよほど良好な物でないと残っていない。
もっとも残っていてもビーフジャーキー状態で文字などは判読不能な物が多い。
(プロト11MWの中にはプレーンなラベルを採用しているタイプもある。)
1950年代にはプラパッチに素材変更されているだけにビンテージでは天然皮革製は希少なパーツだ。

又、当時のラングラーのブランドロゴはロープロゴと呼ばれる縄で形どった文字で形成される今でも続く伝統の物だが頭文字の”W”の端が内側に向いており通称「内巻き」と呼ばれ、以後の年代の「外巻き」と区別され希少な初期モデルの特長とされる。
色落ち。
技術の未成熟さが産んだ偶発的な魅力がビンテージデニムの色落ちですが、前記したようにビンテージらしい見事な縦落ちや自然なアタリを顕示しており素晴らしい。

品番の11MWですが、11oz Men's Western(11オンス メンズ ウエスタン) の略とされています。
以後、販売される事になるジップフライタイプは品番にZipperを意味するZを追加し11MWZとなる。
ボタンフライからジッパーフライへの移行は他の衣類がその便利さ、丈夫さから採用している時代の流れに従った結果ですが、他社と違いラングラーではジッパー普及の速度は早く50年代には、ほぼ全てのジーンズがジッパー装備になり、ボタンフライ・モデルは希少になる。

最後にこのラングラー初のジーンズがジーンズ史に与えた影響として世界で初めて”ジーンズ”と云う商品分類で販売されたと云うのを上げないといけない。
それまでジーンズはオーバーオールの派生的な作業着であるが故に、そのままオーバーオール、ウエストハイオーバーオール等と呼ばれいたのに対してラングラーではそれらとは異なる新時代(第二次世界大戦後)のウエスタン専用ワークウエアとして新たにジーンズと云う呼び名を採用しそれが市場で定着し以後、老舗他社も追従したのはよく知られているところだ。
そうこの11MWからジーンズの歴史は新たにスタートした。



*注
ラングラージャパン時代の復刻モデルや某メーカーのレプリカモデルに「11MWB」と云う品番のモデルが存在するがオリジナル・ラングラーにはそのような品番は存在しない。
多分11MWZがジッパーだからボタンは〜Bをと云う安易な誤解から生じて採用された品番だと思われる。

現在、日本国内で販売されているプロト11MWの復刻モデルはバックポケットの飾りステッチがリーバイス・タイプのアーキュエイトステッチではなくマーベリック・タイプのM型ステッチを採用しているが、そのようなオリジナルは存在していない。
現在のリーバイス社への配慮としてアーキュエイトステッチの採用を断念したと思われる。

プロトに限った事ではないがラングラージーンズ(又はラングラータイプ)で太い、細いの個人の感想が人によりバラバラな理由の中に「穿き方」の違いがあるようだ。
リーバイス等よりもハイウエストな形紙になっている為、ウエストバンド部分が接地する位置がより上部にくるのにリーバイスタイプと同じ位置になるよう、サイズダウンさせたり、ルーズに穿いたりされ、結果としてジャストサイズでないサイズ合わせにより生じた感想故だ。
またリーバイスと異なり70年代以前のモデルには品番がボディー本体に明記されていない為ユーズドでスタイルの異なる別モデル(11MWZ、12MWZ、13MWZ、14MWZ)を識別出来ず全て11MWZ扱いした為に生じた混乱も理由の一つに考えられる。



【購買手記】
ビンテージ市場でも極上なレアアイテムであるプロト11MWは、そうそうどこの古着屋でも売っている筈もなければ、あっても参考商品の場合もある。
仮に販売されていても一品物故に選べないサイズや軽く20万円以上する平均価格等、入手するまでには障害は多い。
が併し、数年前、フラリと訪れた古着屋で平均的な市場相場よりはるかに安い、約7万円代で売られていて、しかも試着したらマイサイズ!!躊躇わずにレジにゴー!でした。
無論、支払いはカードの分割ですが(笑)。
当然の如く店側は「変わったラングラー」程度の認識で、価値や年代を全く知らずに販売していた。
ビンテージブームが去った後の空白時期には、このようなチャンスが極稀にあった。
寂しいような嬉しいような感じだが、一部の骨太なビンテージショップ、ビンテージに強い古着屋以外はどこもそんな”質の低下”が現象として見られた。
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